これでやっと 矢川珠貴 あなたの手の温かさを覚えています。
あなたの背の温かさを、
あの日確かに、あなたとかわした微笑みを――
あなたは私の母でした。
だからこそ、私はこう思うのです。
虚脱するような深い安堵に包まれてつぶやくのです。
一筋の涙とともに。
死んでくれてありがとう・・・・・・と。
私にとって、かつてあなたは大切な人でした。
私の中で、とても大きな人でした。
あなたの憶えていないあの日。
私の心の中で、母という存在は死にました。
そして今日
あなたの肉体が死にました。
それは、深い深い安堵でした。
これでやっと、憎まずにいられる。
これでやっと、傷つけられずにすむ。
これでやっと、傷つけずにすむ。
これでやっと、思い出にできる・・・・・・。
この想いを表現することは難しいけれど。
これでやっと、私は母を静かに想えるときがくる。
あなたが天に昇る一条の煙を仰ぎながら
私はやっと、あなたにこう呼びかけることができるのです。
お母さん、・・・・・・と。 |