ｎｕａｎｃｅ 三景

 １．Ｓｅｎｓｉｔｉｖｅ ｇａｍｅ
小ぎれいな書店。「気持ち悪い」という声に私が振り返ると、二人の女子校生の後ろ姿が。すれ違いざまに「気持ち悪い」と言い、言われたほうは、その時うつむいたりしていて、何が起こったのかわからずしばらく時間がかかり、ようやく振り返っても、もう言ったのが誰なのか、わからない。「ヒットアンド・アゥエイ」と私が命名しているやり方です。しかし、彼女達はミスをしました。店内をぐるっと回って、私とまた鉢合わせしたのでした。私は彼女達を一瞥した後、「見てる価値ないね」といった感じで目を反らしました。そのあと彼女達は。 あわててコンパクトを取り出して、自分達の髪や化粧におかしいところがないか、チェックしはじめたのです・・・・・。

私は大人げないことをした、と後悔しました。私が彼らの、感性のゲームにのっかって、しかえしをしたのはこれ一度きりです。今「気持ち悪い」という声がしても、私は相手を見返すだけにしています。そして、相手が学びの途中にあることを確認するのです。

２．ｆｕｔｕｒｅ Ａ．Ｃ？
何か食べようと入ったイタリア料理の店。夕方５時すぎで、にぎわっています。ふと、隣のテーブルを見ると、押し黙った３歳ぐらいの女の子と、その向かいに、二人とも俳優のような容貌の、女の子の父親、母親とおぼしき男女が。女の子の前には手つかずの料理。それだけ。それ以外の事情は私には知りようがありません。
しかし、その俳優みたいな男の口から出たセリフは。「食べんのだったら、（おまえをここに）置いて（私達は）帰るぞ」でした。！

（「お父さん、それは言葉の暴力ですよ。」）・・・と私は介入する勇気もなく、耐えている女の子に（「がんばれよ！」）と心の中で叫びながら、給仕人が注文をまだ取りに来ないのをいいことに、その場から立ち去ったのでした。

３．Ｉ ｈａｖｅ ｂｅｅｎ ｔｏ ｂｕｙ ｂｅａｎｓ．
夜。私がよく行く小さなスーパー。私の他に店内にいるのは、最近新しく入ったらしいレジのアルバイトの女性一人、うつむき加減で、私を見ません。もう一人社員の制服を着た女性。私がよくここで買っていたのは、大豆、豆腐、納豆、豆乳、落花生、煮豆パックその他。私が買い忘れた物を思い出して店の中を戻ると、棚を隔てた店の向こう側で、先の女性二人が商品をチェックしながら話している声が聞こえてしまいました。「・・・豆臭い。」なるほど。今来ている、いつも豆ばっかり買う客＝私のことを話してるのかなと思いました。二人は私に気づくと、あっ、という感じで黙って、私が豆腐とかが入ったカゴをレジの前に置いたので、レジのほうへやって来ました。気まずそうでした。私は心の中でニガ笑いしながら、（「はい、豆臭い客ですよ。」）と言いたいのを我慢して、ただ二人に微笑みました。・・・・・

その後そのスーパーでしばらくその二人の顔を見ませんでした。私と顔を合わせづらかったのかな？とも思いました。アルバイトの女性は、そのまま辞めてしまったみたいでした。制服の店員のほうは、また顔を見るようになりました。「豆臭い」と言ったのは彼女のほうだったのですが・・・・・。

（ｎｕａｎｃｅ 三景 おわり）         ｂｙ Ｋ．