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早春の梅の香り

執筆: 水仙月  

 早春の訪れ―紅梅白梅は分厚い春の扉を さりげなく、そうっと静かに開けました…。あれほどの厳しい寒さは、いつの間にか何処かに去って行きました。
 幼い頃、梅の花に顔を近付けると とても良い香りがしました。わくわくするような“春のかおり”です! その時の驚きと喜びは、今でも忘れることが出来ません。それから現在に至るまで、毎年早春が巡って来る度に 初々しく懐かしい梅の香りに ハッと嬉しい気持ちにさせられます。ようやく訪れた春の喜び!
 紅梅白梅から香りたつ、かぐわしい早春の息吹き。純白で清々しく、清楚な白梅。華やかで可憐な、心踊るような紅梅。生きている事の喜び、幸せを感じるのです!

梅の花

「春されば まづ咲くやどの梅の花 独り見つつや 春日暮らさむ

山上憶良 (万葉集)

 〈春がくれば、一番に咲くこの家の梅の花を 一人で見ながら、 私は春の日を過ごすのでしょうか。〉(春さればの“さる”は、“来る” “訪れる”の意)。

 万葉の歌人、山上憶良も梅の花を慈しみ、こよなく深く愛しました。
 そして いにしえより多くの人々から紅梅白梅は、愛され続けてきました。
 元々は「花見」といえば、梅のお花見でした。奈良時代に、中国から伝来したばかりの梅がお花見で愛でられていたのです。(奈良時代に白梅、平安時代に紅梅が伝わったとされています)。
 奈良時代に、まだまだ肌寒い日もあったであろう白梅のお花見!(現代のような温暖化とは無縁な奈良時代なので、今よりは寒かった事と予想されます)。
 「珍しい梅を観たい!香りを嗅いでみたい!」 というわくわくするような好奇心でいっぱいの気持ちが、お花見の起源だったのではないかと推測します。恐らく梅のお花見の喜びで、寒さも吹き飛んでいたのでしょう。
 平安時代からは、お花見として桜が愛好されるようになっていったそうです。でも私は、梅のお花見もこの上なく、大変素晴らしいと思っています。私は紅梅白梅が大好きなのです。

梅の花

 この文章を書いていて、今ふいによみがえった思い出があります。私が幼稚園の時に先生やクラス全員で、近くの梅林の見学に行った事がありました。満開の白梅の梅林です。子どもごころにも綺麗な晴れやかな楽しい行事でした。とっても懐かしく美しい思い出です。
 急に紅梅白梅のお花見に行きたくなりました。
 …時空を越えて、奈良時代の人々の梅に寄せる気持ちに、思ひを馳せながら―。