体験記 (61)

　津田町へ嫁いで妹は時々やってくるのだが、いつも母にべったりで２人で何か話し込んでいた。
　家内から見れば小姑である。その妹が母と２人で何やら話し込むのを見ては家内がどう思うだろうかと気が揉めていた。そんなある日、津田へ帰った妹が母に電話があり、「今日の正子さん（家内の名前）の態度何や、私が行くのが嫌ならもう行かんぞ」と言うたらしい。
　その為に母が家内に怒り出してケンカになってしまった。
　母は我が子が可愛いい。自分の娘が嫁に冷たくされたという事で、逆上してしまつた。妹は後先の事を何も考えなく、何げなく言うたのであろうが、母に言えば火に油を注ぐことになるのは分かっているであろうに。
　後日、妹が自分の家の道が狭いので、番屋へ来たいと言って孝さん（妹の主人）と一緒にやってきた。父母は娘が近くに来るので両手を上げて喜んだが、私は反対であった。津田にいてさえケンカの種になるのに番屋に来れば、私の家は修羅場になると考えた。私は表立って反対すると母の機嫌を損なうので孝さんだけその旨を伝えた。孝さんも親と同居していて、体験しているのに、私の立場をなかなか理解してくれなかった。ここで負けたら私が困るので何回も何回も話をすると、やっと分かってくれたのか、妹に「俺は番屋の方へは行かん」と言うてくれた。
　それを聞いた母は、「孝は何ぞあったんじゃ。そうでないとあんな事言うはずがない」と朝に夕に私の前で独り言のように言いだし、それが毎日続いた。遠回しに私を責めているのは、まる分かりなので母の顔を見るのが苦しくなってきた。名古屋の叔母に相談すると「お姉さんは誰ともうまくいかんのだ、恒雄さん名古屋の工場へ転勤してらっしゃい、その方がいいんだよ」と言ってくれたが、転勤すれば、こんなあつれきから逃れられるが、跡取りであると共に、老いた親を置いて行くのも気が引ける。
　しかし毎日、朝に夕に続く母の嫌味に苦しくなった私は丁度人員整理の為、転勤を募っていたので岡さんに電話してみた。岡さんは会社の方へ「山下が悩んでいるみたいなので、本人に転勤の気持ちを聞いて『行く』と言えば対処してほしい」と言ってくれた。会社は私の気持ちなんか聞きもせず、いきなり転勤の指示がきた。
　会社としては人を減らしたい時だったから喜んで行かせてくれた。行先は名古屋工場と思っていたら神奈川工場だった。公になった以上、転勤するか辞めるか、どちらかになる。家族がいる以上辞めることはできないので行くことに腹を括る以外になくなった。 

執筆 :（T.Y）