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体験記 (49)

 当時高松集談会は木曜日に行われていたので勤め人の私は有給休暇をもらって出席していた。香川大学の名誉教授をしていた大西先生が毎回出席されていろいろアドバイスしてくれていた。先生は大学生の時に神経症になり、入院して直接森田先生の指導を受けたとのことであった。
 当時梅毒恐怖で悩んでいる男がいた。何回も血液検査をしてもらうのだが、いつも陰性であったらしい。それでも安心できないと言って悩んでいる。そのくせ、いかがわしい所へ遊びに行って、また検査を受けて悩んでいる。
 それを聞いて皆が笑い出した。その時、大西先生から「山下君、分かるだろう。神経症の悩みなんてこんなものなのだ、君が人の思惑が気になって悩むのも、側からみればバカバカしいことなんだ」と言われた。先生の言われることは分かる。この男はそんな所へ行かなければいいのに、そしたら、そういう悩みもなくなるだろうに、ほんとうにバカバカしい話である。しかし私は会社で仕事をするにおいて、人との関係は避けて通れない。自分に関係する人間には嫌われたくない。仲良く和やかに仕事がしたいと願うのはすべての人に共通した考えではないかと思っていた。
 磯島先生から「神経症はその人の弱い所に出るんだぞ」と教えてくれた。子供時代から口論の絶えない家庭で育った為に感情的なトラブルに弱い人間になっていたのであると考えた。集談会へ通いながら磯島先生の診察を受けていたが、先生の言われることを「ハイハイ」と聞くのだが、その場で返事はするが実行せずに自分の考えを変えず、毎回同じようにグチばかり言っていたので先生から「山下君、君は表面は従順だが内面はすごく頑固だ」と言われた。自律訓練もうまくいかず、先生のアドバイスにも従わず自分の考えに固執するのでついに先生も怒ってしまい「医者が信用できんのか」と怒鳴りつけられた。集談会へ行ってもしばらく物言うてくれず、そうとう怒ったみたいで、病院へ行くのが恐いくらいになった。どこまでも自分に関係する人々から悪く評価されるのを恐れている生活だった。

執筆 :(T.Y)