『舟を編む』
タイトル「舟を編む」の「舟」とは「辞書にとば)」を指し示している。この映画は、編集部員たちが、数十年かけて一つの辞書を「編む=作っていく」話である。主人公.馬締(まじめ)は、大学院を出で頭は「かしこい」のだが、人との関わりがどことなくぎこちなく、会社の中でも少し浮いた存在。そんな馬締が、見初められ配属になったのが、本社の隣の古びた薄暗い建物の中にある“辞書作り',編集部。
そこで、数十年先を見越しての辞書作りが始まる。
馬締(まじめ)は、本社での人との関わり同様、そこでもうまく社員に溶け込めず、自分なりに関わりを持とうと、あくせくする.・・・。
この映画には大きなアクションも大きな展開もない。だが、観終った後、自分の中にゆっくりとじんわりした気持ちがさわやかに残る。それは、この映画を通して、“時間をかけながら、人が溶け合っていく姿”が心に映し出されるからだろう。職場で一つのものを作っていく過程で、人が分かり合い、つながっていく。ここで言う「辞書作り(=舟を編むこと)」は、人をつなげていくための一つの仕掛けなのだ。
一目で気持ちが通じ合う仲もある。
一方で、10年20年と腰を据えた関わりを通して得られる“つながり”がある。広がりがある。
現代は、スイカ、イコカ(香川県ではイルカ)などの電子マネーや携帯電話、インター
ネット、メール、はたまたタッチパネル式回転すしなど、多くの人との関わりが簡略化・短縮化された。確かにそれで.便利になった面もあるが、こうした高速化された時間の流れの中、一度の関わりでダメなところがあると、その関わりが即、よくないものとして評されてしまう傾向があるように感じる。−度だけではなく、長い目で関わりを見据え、少しでも大きな器でもって、人との関わりを受け入れていく姿勢が減ってきているのかもしれない。
この物語は、1996年〜2000年頭頃の設定だが、まだその頃には残っていた「人の心を入れ置く器」のあたたかさのようなものが、じんわりと沁みてくる。
"袖触れ合う仲”もいいが、ゆっくり時間をかけた仲も味わい深い。
どうぞ、この映画を観終わった後のこの感じを、体感してみて下さい。自然とあたたかく、柔らかな気持ちになっているあなたが、そこにはあることでしょう。
(サンシャイン)
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