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(o.s)

「大学生脱落の回想」 o.s

 私の人生は大雑把に言って、約9年周期で大きな出来事がありました。
 9才の頃は大した事件はありません。家の小銭をくすねては、小さな金権力を行使する素晴らしい幸福感と、犯罪者の罪悪感にさいなまれていました。18才になって大学生になりました。物理学専攻。下宿の一人暮らしの自由。勉強しなくても適当に成績は獲得できるものと思いこんでいましたが、大学では、自動的に適当な成績が獲得できるシステムにはなっていませんでした。私は授業をサボれる自由に溺れて多くの授業をサボりました。その結果、前期試験ではほとんど単位が獲得できませんでした。後期には、いっこうに反省することなく授業にほとんど出ないで、下宿に篭って電子機器を製作していました。今思えば、物理学科よりも電子工学科に行っていたほうが良かったように思います。物理学者は格好良い、と思って進路を決めましたが、大学の物理学の教授を尊敬しませんでした。 後期試験はまったく受けませんでした。現実から逃避して布団をかぶって引きこもって思索しました。思春期になって時々、夜にふと考えを巡らせ、死について考えます。永遠に続く意識の不在の概念に圧倒されてパニックになっていました。(今は年をとり、物忘れもひどくなって、そのように意識過剰になることはありません。) 
 4回生になった時に、授業に全然出席していないことが親にバレてしまいました。それまでは、仕送りをしてもらって罪意識にさいなまれながら楽しく文化的な生活をしておりました。仕送りを止められましたので、アルバイトをすることにしました。授業に出るのも嫌がるような人間でしたから、人に命令されて労働することが嫌いなのは当然、なるべく生活を切り詰めていました。様々なアルバイトの経験は印象的な思い出です。最終的には小学校の宿直をすることになりました。この仕事はとても楽な仕事で、単に居るだけで良い案山子のようなアルバイトでした。真面目に労働しているかどうか監督官が調査に来ることもありませんでした。 当時、授業料は1000円/月でした。8年間、大学生を続けました。利用した施設は、図書館と学食と、美術部の部室だけでした。 大学の食堂の朝食は年中同じものでしたが、懐かしいです。心理学、哲学、美術書、宗教等、将来が無い現実を忘れさせてくれて、精神的成長の幻想を与えてくれる書物を読みふけっていました。そして毎日8時間以上、絵を描き続けていました。