[ index ]

コミック紹介

「癒しの葉」

紫堂恭子(しとうきょうこ)作2000年完結、全8巻。 角川書店

まず歴史的に正しいかどうかは忘れるのが、ファンタジーの世界に入る前提。聖地からある中立都市にやって来る一人の聖者。4つの国から協定により護衛として派遣された4人の若者。そのうち2人は、いつ戦争になっても不思議はない敵対国どおしから来た戦士。なぜこんなことに?聖者は「癒しの葉」という不思議な力を持っているらしい。やがて「影の民」と呼ばれる謎の存在が人々を襲う。さらに若者のひとりを敵と狙う同国人の女性が現れる。エトセトラ。

 「癒しの葉」の謎を追ううちに、参加した4人とその周囲の人間の抱える問題が絡み合いストーリーが動いてゆく。…と、格子だけ読むと硬派なお話に聞こえますが、ボケとツッコミがちりばめられたエンタティメントでもあり。 相手は戦士なので斬り合いになる危険もあるのに、それでも、ちょっかいを出すほうも、バズーカじゃないけど、相手の築いた堅固な壁を壊してゆけたのは、相手と斬り合えるだけの腕の憶えがあったから? 圧巻は第6巻で「影の民」からの攻撃を受け続けていた4人のうちのひとりの若者・戦士が、それを克服するところ。闘争で相手を打ち負かすのではありません。 「癒し」ブームに対して、安楽な肌当たりだけを求める趨勢に懐疑を唱える人々がいましたが。人が回復して変わるには、自分自身が、直面するのから避けている問題に向き合う痛みを通り抜けなければならないのでしょう。これは、ひとつ間違うと、私のように「苦しまないと、楽になれない」むやみに自分を苦しめるのが好きな人好みのメッセージになってしまう恐れはあります。しかしその回復に伴う痛みは、確実に先に進むための、楽に至るために、避けては通れない「悩み」「苦しみ」なのでしょう。 もし「癒しの葉」が見えたなら、他者との関わりで回復を進める人の周囲に「癒しの葉」が見えていたであろうと思われる、できごとが、あなたには思い出されませんか?

by T・T